ここではトーレンスTD124以外のレコードプレイヤーたち、EMT・ガラードについて書いてみたいと思います。
TD124について書くだけでは片手落ちというものです。
EMT・ガラード共、我国でオーディオが一番盛んであった70年代以後、ビンテージ系アナログレコードプレイヤーとして長きにわたり愛好家の間でトップの位置を保ち続けてきました。
現在、アナログオーディオというものがなんとか生きのびてこられたのはこのEMT・ガラードが存在したおかげであると思われます。
そしてこの70年代においてはトーレンスTD124は、ユーザーにほとんどその姿も実体も知られずトーレンス社においても次世代のベルト・ドライブタイプに移行していました。
この時代においてこのような古典的なアイドラータイプのレコードプレイヤーは他にレンコ・デュアルくらいしか見当たらなかったと記憶しています。
さて現在、長きに渡ってビンテージ系オーディオプレイヤーの中で王座を占めてきた、この両者に遅れてきた古参者としてTD124をユーザーの方々に認めていただかねばならないわけですがこの両者に比べて、TD124の立場はきわめて弱いものです。 それはこの両者がアナログレコード愛好家、並びにオーディオマニアのシステムコンポーネント中のレコードプレイヤーのシェアの獲得にトーレンスTD124は参加できなかったからです。 トーレンスTD124はこの争いに参加・エントリーする前に退場してしまったからです。 主な要因は製造中止なのですが、それ以外の原因は実はTD124の構造上の問題から発生するトラブルにあったのではないかと思われるのです。
およそ、動く機械という代物はその構造上の最大の長所が欠点に変化・転化するという減少が宿命としてあるものなのですが、TD124もその最大の特徴であるベルト・アイドラー方式という構造が災いしたと考えられるのです。 ベルト・ドライブとアイドラードライブの長所を取り入れたという事は、うらを返せば両方の短所も同時に取り入れるという事になります。
1台のプレイヤーの中にベルト・ドライブとアイドラードライブといういわば2台の形式の異なるプレイヤーを組み込んだのがTD124なのです。 つまり、どちら側に不都合が生じてもまともに、動かなくなってしまうという事になります。
これがEMT・ガラード等のアイドラードライブタイプと大きく違っている所なのです。
EMT・ガラードも駆動部は動力シャフトとアイドラーのみという構造のため、駆動部メンテナンスはほとんどクリーニングのみで動作しますし、パーツの劣化に伴う音質の変化もなだらかに落ちてゆきますが、TD124のこの独特アイドラードライブではこの経年変化による劣化は割合、急激に来る事が推測できます。 しかし、一見欠点の様なこの現象もよくよく考えてみれば定期的なメンテナンスを実行すれば、充分トラブルの発生を未然に防ぐ事ができるわけですからあながち欠点とはいえません。 ではなぜ、トーレンスTD124はあえて、この様なシステムを採用したのか?
この事を考える時にトーレンスTD124と他の古典的なアイドラードライブとの聴覚上の比較が答えを与えてくれる事に気がついたのです。 今現在、当社にあるレコードプレイヤー、ゴールドリンク、レンコ、ガラード301、コニサー、レコカット等の音とトーレンスTD124との音の出方の違いです。 それらはトーレンスTD124にくらべて比較的、音の出方がストレートで直線的なエネルギーが割合強いといえるのです。 TD124はもっと複雑な一筋縄では理解しがたい、陰影のある音がするのです。 この四台の古典的アイドラープレイヤーの再生音は音の翳りより光の部分において、主力がおかれているように感じられるのです。 トーレンスTD124はこの音のかげの表出が変幻自在なのです。 そしてこの音の表出を可能にしたのはほかならぬベルト・アイドラー形式の成せる技ではないかと考えるに至ったのです。 トーレンスTD124はその内部トランスミッション動力伝送において、二種の異なった方式を内蔵する事により生まれるある種のパラドックスが、再生音に複雑な陰影を発生させる事になったと私は推測するのです。
EMTのプレイヤーに関しては、私は正直な所よくわからないというのが本音です。
このよくわからないというのは927・930共、現在作動している状態がいったい完全体の何割の状態であるかという事です。 完全な状態か、それに近いものでなければ評価の下しようがありません。 仮にEMTをお持ちの方が私の所の
EMTは完全な状態であると言われても、それを証明する事が本当に可能なのでしょうか。 またEMTは完全なるスタジオ・プロフェッショナルユースであり、よろしくスタジオ・ラインに組み込まれるべきものと考えますし、TD124のコンシュマー仕様とは一線を画すものであります。 私が思うにEMTを最良にその実力を発揮させるには少々我暴な意見なのですがスタジオを作り、全部のアンプリファイアーまたはスピーカーもプロフェッショナル仕様にするのが一番だと思います。その際の音の調整の困難さは600Ωラインレベルをいじった方なら充分わかると思います。
ガラード301については今までにいろいろと雑誌等で書かれておりますし、今さら私があえて書くまでの事もないのですが、トーレンスのレストアをする側から見れば又、違った意味合いもあり、それらを書くのもユーザーの興味をひかれる事もあると思われるので思いつくままに書いてみます。 301を使用してみてもっとも感心する所はプレッターの水平方向回転がきわめてなめらかで独特なものがあります。それは電源OFFの空転時のその回転エネルギーの落ち方の事です。 ある程度の修理調整できわめて長期間安定して作動してくれます。 しかし、301をトーレンス同様フルレストアを行ってもTD124ほどの音の伸びしろが得られるかが疑問です。 基本動作の安定性のかわりにチューンナップした場合のマージンが少ないのではないかと思えるのです。 しかし、この考えは301に対しては正しくないのかもしれません。
301型では基本性能さえきちんとしていれば所定の音質は得る事ができ、それで充分であるとしているように見えるのです。 もしこの考えが正鵠を得ているとすれば301型においてはオリジナルパーツを使用しかつ適格な修理、調整を行うなら何ら問題はなく、グレードアップパーツやチューンアップ等もすべて不要という事になってしまいます。
音の再生においては音楽自体の構成力と骨格をきっちりだしたりっぱな音といえますが、音楽表現においてはややユーモアに欠けるきらいがありこの部分に関しては同じ英国のコニサー・クラフツマンに一歩譲ります。 トーレンスTD124は現在のオーディオ業界での位置はスタジアムでの周回遅れのマラソンランナーに例えられます。 長い間の休眠からさめて今、スタートラインに立って、トーレンスTD124には先をゆくビンテージプレイヤーに負けない武器があります。 豊富なオリジナル相当パーツ品、強力なるMCカートリッジの磁界から開放される非磁性体プラッター、大体の事なら修理可能な技術、又、チューンナップによりさらなる音のグレードアップ等々です。 トーレンスTD124はオーディオレコード愛好家の皆様に今まで聞いたことの無い、もう一つの音の選択肢を提供する事を可能にしました。 選択肢の多様性こそレコードオーディオの楽しみのひとつであると考えます。 遅れてきたオールドルーキーではありますが実力は確かです。
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