オーディオに於いてはグレードアップ等を計ろうとした場合、経験上単なる思いつきで行った場合など、偶然うまくいく事があり、自分自身では大変うまくいったと思ってしばらくは満足しますが、すこし時間がたつと不満が発生し、元の状態にもどしたり又、再度調整を行ったりと気の休まる暇がなく、やがて疲れてしまう事が多々あります。
なぜこのような事が発生するのかを考えてみますと、経験や思いつきで行う作業は結果として僥倖に支配されるからだと思うのです。 すなわち論理的な裏づけが無いと、たとえうまくいっても、その状態に今いち自信を持てずにいて、常に不安が生じるのです。 偶然ではなく必然であるなら、迷いの生じる事は少ないと思います。
先に述べたアース体効果等は、TD124の構造とその働きをループ的な考え方で表したものでありましたが、今回はそれをプレイヤーとキャビネットの相関的な見地で表してみようと思い書く事にします。

通常のレコードプレイヤーとキャビネットの関係はアース体効果的発想でみるならば、プレイヤー本体は振動モード的にはキャビネットに対しては能動的自己完結体として働き、キャビネット側は受動的自己完結型としての役目をはたしている事になります。 しかしこれは単にカテゴリー的に統括したもので、モデルとしてははスタテックなままです。 実際は各レコードプレイヤーの構造と材質による振動パターンでさまざまな現象が発生するはずです。当然キャビネットにおけるアース体効果においても変化する事になるわけです。 たとえば古典的アイドラープレイヤーにおいてダイレクトにキャビネットに取り付けた場合、キャビネットは受動的完結型としての立場を失ってしまう事になります。 キャビネットはいわばレコードプレイヤーシャシーの延長体として働いてしまうのです。 この場合アース的役割をはたすのは四本の足のみという事になります。 この様な場合、アース体としての四本の足の接地面積、構造材質により様々な音質の変化が発生します。 当然キャビネットの素材においてもよく吟味されなければなりません。 キャビネットはレコードプレイヤー本体そのものと同様になっているからです。 ここでひとつ疑問が湧いてきます。 このような影響をさけるためにレコードプレイヤー本体をキャビネットから浮かせるか、スペーサー等を挿入してアイソレート化をはかれば良いのではというものです。 
この場合はプレイヤーとキャビネットは分離されアース体効果として能動受動の関係となりますが、ここでの最大の問題はレコードプレイヤー本体の構造が自己完結型であるかどうかなのです。 すなわちプレイヤーの振動をキャビネットに向って落としているタイプのプレイヤーではキャビネットの自己完結型としてではなく伝導型として働かされているわけですから、もし別の表現を用いるならそのプレイヤーは空中に浮いた形となっている事になります。 TD124のようにプレイヤー本体、シャシーが自己完結型ならそれほど問題がないわけですが、そのような構造をとっていないプレイヤーでは自らの振動を自らで解決できないわけであり、かえって振動ノイズが増えたりする事になります。
これらを総合的に判断すればTD124においてはプレイヤーシャシー本体、マッシュルームゴム、キャビネット等がそれぞれ独自の働きにより相互関連的なアース体効果を保ち、それにより音質の向上に関して、きわめて有効な手法を用いている事がご理解していただけると思います。 プレイヤー本体をダイレクトにキャビネットに組み込んだタイプでは、カテゴリー的にはキャビネットは伝導型となりますが、実際はその構造、様式、材質に伴う内部損失等により、伝導型から受動体完結型までその特性は変化する事になります。 このタイプは、伝導型から受動体完結型までのスケール内で、そのキャビネットがどこの見切り位置にとどまるのかを決定するのはキャビネットの質量に多分に左右されるのはもちろんですが、もうひとつの要因としてこのようなタイプのプレイヤーに音質上の影響をもたらすものにキャビネットの足があります。 
この足の大きさや材質、構造等により音質は変化し、一番重要なファクターとして足の接地面積の有効面積の大小が問題であります。 アース体を効果的に伸ばせばこの足の部分の有効面積の大小がプレイヤー本体とキャビネットの相互干渉の関連的な特性の音質を招き、それぞれ各個体部分の振動モードを変化させプレイヤー及びキャビネットの働きの上で性格の変換を招くという現象を発生させてしまうのではないかと推測されるのです。 これがこのタイプのプレイヤーがキャビネットにより又、足によりその音が変化するという原因の仕組みではないかと思われます。 
いずれにしてもこのタイプではプレイヤー本体、キャビネット、足という三点のマッチングによりその再生音は多大な影響を受け、最良のマッチングを求め続けざるを得ないと考えられるのです。


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キャビネットの相関的役割