TD124専用キャビネットの構造と働きについては前にも述べた事がありますが、今回はまた別の面からみたキャビネットの仕様について書いてみることにします。
TD124についてはプレイヤー本体、マッシュルームゴム、キャビネットがそれぞれ個別に受動完結体として振動エネルギーの一部を他の個体に流すことにより安定した動作と音質の向上への貢献をはたしている事は前にも書いた通りなのですが、これはアイソレート的な思考とは異なっていると思います。 全体アイソレートという方式においては質量による内部損失というものにより解決をはかる事が多々見うけられ、一見大変良い理論のようですが問題はその内部損失以上の振動エネルギーが伝送された場合はどのような事が起こりえるのかです。
そのような事態を回避するため、必然的に大質量にたよる事になり、結果大掛かりなものになりかねません。
はたして、それで音質の向上が計れるなら良いのですが、もし使用するレコードプレイヤーが前回述べた振動伝導型であるならレコードプレイヤー自体が孤立することになり、自らの振動エネルギーをもてあます事になるのではないでしょうか。結果的にキャビネット自体はほとんど振動しないのにプレイヤー本体は振動が増大するという結果になる危険性がなきにしもあらずです。 また、この二分割されたキャビネットの上下の寸法の違いも重要なファクターであり、寸法的には上部
プレイヤー側のキャビネット高はキャビネット全高の三分の一弱です。 この三分の一弱というものがミソできっちり三分の一とした場合は振動周波数が揃ってしまうと思っての処置なのです。
このような事をもし大質量の内部損失吸収型として作られれば、綿密な振動モードの研究とそれに合致する素材の選択に多くの時間とお金がかかりますし、仮に出来たとしても前に述べたようにキャビネットは振動しないがプレイヤーは振動するという妙な結果になると思われます。 ではTD124の場合はどうなのかと言えば、TD124においてはキャビネットに伝導体としての役割をそれほど与えていません。 前にも述べた通りTD124は各部が独立して働いており、プレイヤー本体をダイレクトに組み込んだタイプとは異なっています。 それではこの本機のキャビネットは何であるのかという疑問が生じます。 何も本製品ではなく、スチールや石材でも良いのではないかと思われるかもしれません。 しかしそれらは重量とコストの面で現実的ではありません。 音質的にもコストの割りにそれほど向上するとは考えられないのです。 やはり木製がベストとトーレンス社は判断したのだと思います。この専用オリジナルキャビネットを用いたTD124のコンプリートな形をみた場合、実はもうひとつ別の側面があるのではないかと、これは車的に考えればタイヤなのではという見方です。
高さ調整金具をホイールに見立てればマッシュルームゴムはタイヤのホイールに当る部分であり、木製キャビネットはタイヤの内部構造的な働きをもち4本のプラスチック製の足はタイヤの接地部と見なせるのではないでしょうか。 そうすればTD124本体の重量からすればかなり小さい足の接地面積も説明がつくと思われます。 太いタイヤがグリップ力は増大しますが反面ロードノイズを拾いやすくなります。 それを避けるためにわざと小さい設置面積をもつ足を採用したと考えられます。 かつて古いロールスロイスはラジアルタイヤを使用せずチューブタイヤを用いていました。
それはヴィンテージロールスロイスの味となっていたと同様のことがTD124においても行われていたと思えば、この部分にハードな部材を用いず、やわらかな木材を使用した意味もうかがい知れます。 これらを考慮すれば、TD124をキャビネットに組み込まずに使用した場合は、タイヤを着せずにホイールのみで道路を走行するのと同様であり、TD124本来の音を著しく損うこと必定であります。
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TD124専用キャビネットとシャシーとのアイソレートについて