試聴にあたったてのオーディオシステムは特別なものは用いていません。
アーム・カードリッジはシュアーのスタジオ・ディネスティクを使用、アンプリファイアーはオルトフォンのプリメインアンプ真空管のもの、スピーカーは左側がヴァイタヴォックス・クリップシュホーン、右側がロンドンウエストレックスA・7タイプです。 
まずアームカートリッジは当時・TD124にカップリングされていたもので、必要にして十分、その音質・音色ともまだ紳士がいた時代というのを感じさせるものでコクのある音を出してくれます。 アンプリファイアーのオルトフォンはプリメイン型であり家庭用のものと言えます。 ここにハイグレートのプリ・パワーアンプを使用しないのはその様な高級アンプは音を補正してしまうため、レコードプレイヤーの音の良否をカバーしてしまいます。 ですから、このクラスのアンプリファイアーのほうがプレイヤーの良否がかえってはっきり出してしまうものだからです。 スピーカーは左右が違っていますが、これはモノーラル使用時に音の違いを知るためにこの様な構成を取っています。

音質について
オリジナルTD124は堂々たる音が特長で、メタルスピンドル使用のものとの大きな違いは、まず低域と高域のバランスの取り方に特長があります。 メタルタイプは最低域と最高域がやや意図的にリスナーの聴覚上持ちあがって聞こえるように作られています。 このままではドンシャリと取られかねませんが、そうではありません。 
その様に聞こえるのはこの部分をきっちり再生する事で音に張りを与え、音楽的エネルギーをリスナーにはっきり認識させるためなのです。 オリジナル・プラスチックタイプがこの様に聞こえるのは、この部分をきっちり再生する事で音に張りを与え音楽的エネルギーをリスナーにはっきり認識させるためなのです。 聴覚上の働きをせずなだらかにカートリッジの再生限界まで伸びていきます。 メタルタイプか、音質的表現かはその最も低域において、その音の残響成分が音のない状態とに吸収される時に音の存在感をあきらかにするのに対し、プラスチックタイプは空間に和合する形を取ります。 
無音の闇にとけこんでいくのです。 メタルタイプのこの働きで、ステレオ録音はチャンネルセパレーションと音の分離にきわめて有利に働きます。 プラスチックタイプではこの様な働きをしませんが、最低域での再生限界がずっと低いため、
音が深くいわゆる低音がうごめくように再現されます。 中域では、メタルタイプは、たとえばオーケストラ物の再生時に
ヴィオラとヴァイオリンの重なった場合のハーモニクスの表現はすぐれていますが、プラスチックタイプはチェロとヴィオラの重なったハーモニクスの表現に独特のものを聴くことができます。 高域では、メタルタイプは前途の通りですが音楽的なアクセントの取り方が絶妙であり、きわめて生き生きとした音楽的表現を持ちながら、周波数的には現行品のプレイヤーに一歩ゆずるとしても気品をたもちながらなだらかに下降しつつ充分な伸びをしめてくれています。 プラスチックタイプはきわめて自然に渋さと音のキレこみが良く、音の浸透力という面で優れたものがあります。

音場について
音場はメタルタイプはチャンネルセパレーションにすぐれ、左右のスピーカーの外側の音像までもきっちりコントロールしてくれます。 中央の音の集まりも均一なものとなっていますが、その分プラスチックタイプに比べて音の深度がやや浅くなります。 プラスチックタイプはチャンネルセパレーションより音のコクに、音のかくれた部分・ダークな音色の表現力により左右の
スピーカーの間に音がびっしり埋まってしまう感があります。 ですから左右のスピーカーの外側の音像定位はスピーカーまかせといえます。 音の深度はメタルタイプに対しきわめて深く、奥行きに関しては抜群であります。

音の高さについて
フルオーケストラでは、メタルタイプは残響のはねかえりは左右のスピーカーの外側の定位からドーム状に広がっていきますが、プラスチックは中央から天に向ってゆく感があり、エネルギーを感じさせます。 この時、たとえばコントラバスの低音に両者の鳴り方の差があります。 メタルタイプはコントラバスの音と他の楽器の音混ざりあい、調和のとれた統合された音としての響きが床にはねかえり天井に向っていくわけですが、プラスチックタイプはコントラバス単体での響きがやや強く表現され、それらが床にはねかえった時の天井に向うエネルギーが強く感じる事ができ、その他の楽器はすこし遅れてエコー効果の様に響きます。 これは低域の製動力が優れているため音のスピード化が著しいためではないかと思われます。

その他の表現では
ピアノではメタルタイプはピアノ全体が響く感が有りますが、プラスチックタイプでは打鍵のタッチのON・OFFまで注意深く聴けば聞き取る事ができます。 声楽ではメタルタイプは生き生きとしたトーレンス独特のアクセントとでもいうべききわめて
音楽的な響きが得られますが、プラスチックタイプではきわめて自然になめらかさが際立ちます。
この両者の音の傾向はジャズにおいてその音楽家の演奏スタイルの表現力にあきらかになります。 
弦楽四重奏では音楽的に楽しく聴けるのはメタルタイプであり、総合的な音のまとまりの良さが際立ちます。 プラスチックではややデモーニッシュにすぎる傾向があり、カートリッジ及びオーディオラインナップ上での調整に迫られます。



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